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映画ツイートデー

内紛が続いたセルビアは、世界から孤立してしまう。
そんな故郷にあふれるのは、仕事も夢もない 若者 ( バーバリアンズ ) たち
理想とはほど遠い現実でもがき生きる、彼らの等身大のストーリー


旧工業地域に暮らす主人公の青年ルカ。仮釈放中で仕事も目標もなく、鬱屈した日々を送っていた。そんなある日、自宅を訪問した社会福祉士によってコソボ紛争で失踪したと思われていた父が生きていることを知る。そんな中、首都ベオグラードでコソボ独立反対のデモに参加したルカは、帰り道に父と再会することになり―。
やり場のない思いや不安を抱えながら、自分の居場所やアイデンティティを模索する若者の姿と、その社会背景を誇張せずに端的に描いた本作は、英国の巨匠ケン・ローチ監督が労働者階級や移民たちの日常にクローズアップして描いた『ケス』や『SWEET SIXTEEN』などの作品にも通じる一本であると言えるだろう。


33歳のセルビア人監督が描く、故郷の混乱と闇。

本作が長編映画デビュー作となるイヴァン・イキッチ監督は弱冠33歳。セルビアの首都ベオグラードに生まれ、コソボ紛争中に多感な時期を過ごした監督は、「自分たちのような“忘れられた世代”の憤りを描きたい」と脚本をしたためた。
その動機となったのが、2008年2月21日に首都ベオグラードで起きた【コソボ独立反対デモ】である。あの晩、各地方から多くの若者たちが集まり、火炎瓶の欠片や焼かれた米国旗(コソボ独立を認めたため)が道路に散乱していたという…。まさにこれまでの無政府状態への怒りが爆発した夜の出来事だった。そしてこの反対運動は監督の記憶の中に深く焼き付けられた。時が経ち、監督は大人になっても忘れられないこの記憶に向き合い、混乱の末に荒廃した故郷のリアリズムを描き出した。


地元の不良たちを起用し、鼓動が聞こえるかのようなリアリティを追究。

若者をよりリアルに描くため、役者ではなく素人を起用することを決意した監督たちは、6ヶ月間にわたり20以上の高校でオーディションを行ったが、適任のキャストが見つからずキャスティングは難航していた。そんな矢先、偶然、本作の舞台となった街(ムラデノバツ)にある学校で、ある落ちこぼれグループと出会った。それこそが、ルカやフラッシュを演じた若者たちだ! 監督は一目で彼らしかいないと確信し出演交渉を行った。
イメージ通りのキャストを発掘できたものの、本物の不良たちを使った撮影には、思いもよらないトラブルが多発…。ネナド(フラッシュ役)は撮影初日の前夜にヘルメットなしでスクーターに乗り、顔に怪我をおってしまい、彼が回復するまで約一ヶ月撮影が延期することになった。また拘置所から休みをもらい撮影に参加した不良は、撮影中に問題を起こしてしまい拘置所に引き戻されてしまうなど、撮影中はこうした予想不可能なアクシデントに見舞われながらも完成までこぎつけた。


不良だった彼らが抱きはじめた夢。撮影のその後—。

仕事もせずやりたいこともなかったというキャストの若者たち。本作との出会いをきっかけに新たな道を歩み出した。ルカを演じたジェリコ・マルコヴィッチは、素人とは思えないほど繊細で瑞々しい演技が評価され、各国の映画祭で新人賞や男優賞などを受賞し脚光を浴びた。一躍シンデレラボーイとなったジェリコは俳優ではなく映画監督の仕事に興味を持ちはじめ、映像制作を学ぶ学校への進学を希望しており、英語の勉強も始めたという。
フラッシュを演じたネナド・ペトロヴィッチは役者としての道を歩きはじめ、現在、ジョン・ヴィンセント・ハートやサマンサ・モートンらが出演するイギリスのTVドラマ「The Last Panthers」に出演している。 本作に出会い道を切り開いた彼らは、自分が置かれた環境に負けず、映画と出会ったイヴァン・イキッチ監督そのものであると言えよう。

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2008年2月17日、コソボはセルビアからの独立宣言を行い、
セルビア政府は強く異議を唱えた―。

まだ精神的に大人になりかけで、仮釈放中の身という問題児のルカは、かつては工業地域として栄えながら、いまは荒れてしまった町ムラデノバツ(首都ベオグラードから50kmほどの距離)に住んでいる。閉鎖的な街を毎日うろついてばかりのルカにとって、鬱屈した生活の中で唯一発散できるのは地元のサッカーチームの試合で応援すること。そしてサポーターを仕切るリーダーで親友のフラッシュと、いつも夜中までつるんでは飲んで騒いでいた。
ある日、自宅に訪問してきた社会福祉士によって、ルカは家族の秘密を知らされる。それはコソボ紛争で死んだと思われていた父が生きており、ルカを捜しているというのだった。突然の真実に当惑するルカ。何故か母は父の消息について、ひた隠しにしていた―。
家族の問題が解決されない中、仮釈放中のプレッシャーや上手くいかない恋の悩みなどでルカは苛立ちを抑えられず、いざこざから地元のサッカーチームでトップクラスの選手の脚を折ってしまう。トップ選手を負傷させたルカを捕まえようと、チームの連中やサポーターたち、さらには友人たちにまで追われるはめとなり、ルカは行き場がなくなってしまう。
そんなある日、首都のベオグラードでは、一方的に独立宣言をしたコソボに対する抗議デモが行われ、多くの若者たちもこぞって参加した。ルカも仲間たちとデモに向かうが、信念も無くただ暴れては強奪をして楽しむ仲間たちを見て、ふと我に返る。
「いったい、自分は何者で何がしたいのだ・・・」と自問自答するルカは、仲間たちから離れ、ベオグラードにいるという父親に会うためバスに飛び乗るのだが―。

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ジェリコ・マルコヴィッチ

とても明るい性格だが、衝動的な気質もある10代の若者。離婚した両親はムデノバツに住んでいないため、ジェリコが兄弟の面倒をみながら家を支えている。端正な顔立ちであるため、女性によくモテる。彼の好きな映画のキャラクターはマスク(ジム・キャリー)で、撮影当時は背中にタトゥーを入れるか否かで頭を悩ませていたという。
 

監督・脚本:イヴァン・イキッチ

1982年セルビアの首都ベオグラード生まれ。
ベオグラード演劇芸術大学で映画テレビ監督学部を主席で修了。2008年ベルリン国際映画祭が新進の映画人を対象に主催する一週間のワークショップ、 “ベルリン・タレント・キャンパス”に参加した。
2010年に監督したロードムービードキュメンタリー“Tarot Serbia”は多くの映画祭に出品され賞賛を受けた。本作は初長編映画である。

ネナド・ペトロヴィッチ

元キックボクサー。
今は毎週のように携帯を替えること、パソコンとスクーターを取っ替え引っ替えすることに熱中している。パリで父親と一緒にペンキ屋として働いていることもある。これまで無免許運転やスピード違反で100回以上切符を切られているくらいやんちゃ。
ヤスナ・ジュリチッチ

1966年、旧ユーゴ時代のセルビア、ルマ生まれ。
セルビアのノヴィ・サド芸術アカデミーで学び、その後、舞台、映画で活躍するセルビアでは有名な女優である。2010年のロカルノ国際映画祭では、“White White World”の作品で金豹賞を受賞した。現在は、母校のノヴィ・サド芸術アカデミーで講師をしながら、女優としても数多くの作品に出演している。
本作の撮影では素人の役者陣に大きな影響力を与えた。
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◆カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭2014 
 イースト・オブ・ウェスト コンペティション部門スペシャル・メンション受賞
◆クロッシングヨーロッパ映画祭 最優秀作品賞受賞
◆ヨーロッパ映画祭 メインコンペティション セイフィ・テオマン賞受賞
 (最も優れたデビュー映画に贈られる)
◆ブリュッセル地中海映画祭 Cineuropa賞
◆ザダールフィルムフォーラム 優秀俳優賞受賞(ジェリコ・マルコヴィッチ)
◆ヘルツェグ・ノヴィ映画祭 最優秀女優賞(ヤスナ・ジュリチッチ) 
◆スロヴェニア映画祭 最優秀制作会社受賞 
◆レスコヴァツ国際映画祭 ジヴァジン・パウロヴィッチ賞グランプリ受賞
◆Cinema City International Film Festival – Innovation Award / Youth Jury Award(セルビア)
◆FEST – Best Debut

◆レインダンス国際映画祭(イギリス) 最優秀デビュー賞ノミネート
◆モトヴン映画祭(クロアチア) メインコンペティション
◆ブリュッセル地中海映画祭(ベルギー)
◆ヒホン国際映画祭(スペイン西部)メインコンペティション
◆リエステ国際映画祭 長編コンペティション
◆トビリシ国際映画祭(グルジア首都) メインコンペティション
◆テッサロニキ国際映画祭(ギリシャ) バルカンコンペティション 
…など20を越える数々の国際映画祭に正式出品
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このクソ的世界の中で抱く主人公・ルカのヒリヒリする感覚は、セルビアでもニッポンでも全世界共通だ。

原一男 大阪芸術大学 教授/映画監督
社会から、友達から、家族から弾き出され、荒ぶる場のサッカー場も出禁中。若い憤怒と痛恨が血潮となって迸るよう。

後藤岳史 映画ライター
役者の不良が撮影前日にノーヘルで事故り顔面に怪我、撮影が一ヶ月延期になったという裏話が他人事とは思えません。
本物の不良ならではの顔つき、体つき、原付。最高です!


小林勇貴 映画監督『孤高の遠吠』
地元サッカーチームの黒人選手の送り迎えをすることになったコソボ難民のルカ。行方不明の父親、サッカー、民族主義──
17歳の少年の目を通して描く現代セルビアの熱と悶え。


千田善 国際ジャーナリスト/元サッカー日本代表オシム監督通訳
かつてセルビアが世界の孤児にされていたことをどれだけの人が知っているだろうか。欧米のリベラル派を中心とした文化人によるセルビア人に対するヘイトクライムが確かに存在した。
そんな地域の切実さがひしと伝わってくる映画である。
予備知識を無しでまず観賞。
そして背景を知ってもう一度見て欲しい。


木村元彦 ジャーナリスト
笑顔を見せない若者たちの暴動は、遠く離れた出来事ではない。
この映画は意思をもって「無意味さ」を描き、声なき声を拾い上げた、痛烈なシュプレヒコールじゃないか。



真利子哲也 映画監督
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都道府県 劇場名 お問い合わせ 公開時期
大阪 シネ・ヌーヴォ 06-6582-1416 2月20日~
愛知 名演小劇場 052-931-1701 2月20日~
神奈川 シネマ・ジャック&ベティ 045-243-9800 3月26日~
兵庫 元町映画館 078-366-2636 4月2日~
京都 京都みなみ会館 075-661-3993 4月頃予定
東京 シアター・イメージフォーラム 03-5766-0114 上映終了
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